楢ノ木大学士の野宿

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 「先生お手紙でしたから早速とんで来ました。大へんお早くお帰りでした。
 ごく上等のやつをお見あたりでございましたが、何せ相手がグリーンランドの途方もない成金ですからありふれたものじゃなかなか承知しないんです。」

 大学士は葉巻を横にくわい雲母紙を張った天井を斜めに見ながらこう云った。

 「うん探して来たよ、僕は一ぺん山へ出かけるともうどんなもんでも見附からんと云うことは断じてない、けだしすべての宝石はみな僕をしたってあつまって来るんだね。いやそれだから、此度なんかもまったくひどく困ったよ。殊に君注文が割合に柔らかな蛋白石だろう。

 僕がその山へ入ったら蛋白石どもがみんなざらざら飛びついて来てもうどうしてもはなれないじゃないか。それが君みんな貴蛋白石の火の燃えるようなやつなんだ。

 望みのとおりみんな背嚢の中に納めてやりたいことはもちろんだったが、それでは僕も身動きもできなくなるのだから気の毒だったがその中からごくいいやつだけ撰んださ。」

 「ははあ、そいつはどうも、大へん結構でございました。しかし、そのお持ち帰りになりました分はいづれでございますか。一寸拝見をねがいとう存じます。」

 「ああ、見せるよ。ただ僕はあんな立派なやつだから、事によったらもうすっかり曇ったじゃないかと思うんだ。
 実際蛋白石ぐらいたよりのない宝石はないからね。今日虹のように光っている。あしたは白いただの石になってしまう。今日は円くて美しい。あしたは砕けてこなごなだ。そいつだね、こわいのは。しかしとにかく開いて見よう。この背嚢さ。」

「なるほど。」

 貝の火兄弟商会の鼻の赤いその支配人はこくっと息を呑みながら大学士の手もとを見つめている。

                         

 大学士はごく無雑作に背嚢をあけて逆さにした。下等な玻璃蛋白石が三十ばかりころげだす。

 「先生、困るじゃありませんか。先生、これでは、何でも、あんまりじゃありませんか。」

 楢ノ木大学士は怒り出した。 「何があんまりだ。僕の知ったこっちゃない。ひどい難儀をしてあるんだ。旅費さえ返せばそれでよかろう。さあ持って行け。帰れ、帰れ。」

 大学士は上着の衣嚢から鼠いろの皺くちゃになった状袋を出していきなり投げつけた。

 「先生困ります。あんまりです。」貝の火兄弟商会の赤鼻の支配人は云いながらすばやく旅費の袋をさらい上着の内衣嚢に投げ込んだ。

 「帰れ、帰れ、もう来るな。」

 「先生、困ります。あんまりです。」

 とうとう貝の火兄弟商会の赤鼻の支配人は帰って行き大学士は葉巻を横にくわい雲母紙を張った天井を斜めに見ながらにやっと笑う。


                                  ・・・ おわり
  





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