獣脚類の走行性に新たな指標

 足が長いほうが速く走れるというのは、単純な法則です。

 足の長さといっても、現生動物では、大腿骨の長さはほとんど関係がなく、膝から下の下肢が長い動物は速く走れるとされています。 

 そして、獣脚類の場合、図に示すように、小型で体重が軽いほど、下肢は長くなります(W. Scott Persons IV, et al., 2016 )。

 図で、Aは遠縁のタクサ、Bは近縁、Cは同一タクサでの成長段階の違いです。いずれもも右の小型のほうが、下肢が長めです。



srep19828-f1.jpg

 しかし、今回紹介する獣脚類の走行性に関する論文では、 これは体重によるアロメトリック(allometric、非比例)な影響であって、必ずしも、走行性が高いわけではないと、報告されています。

 そこで、アロメトリックな効果を排除するため、体重を考慮した指数が用いられています。

 今回の指標では、同じ下肢のプロポーションなら、体重が重いほど、走行性は高くなります。

 そのせいもあるのか、比較的小型の獣脚類の走行性能は低く、ティラノサウリロイデア(上科)のような大型獣脚類では、高くなっています。 

  アルバータ大は、T.rex はライオンで、ナノティラヌスはチーター、と紹介しています。しかし、実際の速度にはボディサイズがからむので、最高速度そのものを示しているわけではありません。


 53種の獣脚類について、実際の下肢長と、大腿骨(体重)から予測される下肢長との比率を調べたもの。成長に伴う変化についても考察されています。 

 その結果、初期の獣脚類は遅く、獣脚類は、時間をかけて、走ることに適応していったとされています。

 一方、進化したティラノサウロイデアは速く、また、T.rex とナノティラヌスの比較では、走行性の適応に大きな差があり、ナノティラヌスの種としての有効性と、T.rex とは異なる生態系に住んでいたことが示唆されています。


 獣脚類の四肢のプロポーションに関しては、体重のアロメトリックな効果が問題となります。  体重増に伴い、場所によって、プロポーションの異なる成長が見られるのです。

 このアロメトリックな影響と走行適応圧は競合し、四肢の形態に反対の影響を与えるのです。   

 例えば、走行性の進化圧を受けている系統であっても、同時に、体重増加と走行性圧を超えるアロメトリックな選択圧を受けていれば、四肢プロポーションには変化がみられないか、下肢の割合 はあえて小さくなります。  

 逆に、体重が減少する系統では、下肢の割合が大きくなりますが、それは、走行性志向の選択圧ではなくて、単にアロメトリックな圧から開放されただけなのです。

 
 そこで、今回は、走行性の指標として、走行性肢比率(CLP、Cursorial-limb-proportion)スコアを算出しています。  

 CLP = (真の下肢長/予測下肢長 - 1) ×100 で、真の下肢長と、大腿骨(体重)から予測された下肢長の百分率比の差です。 

 大腿骨(体重)から予測された下肢長( l )は、 l = 4.178 × f ^ 0.8371 で示されます。f  は、大腿骨長です。一般的に、大腿骨の長さは体重と相関するため、体重の指標として用いられています。

 また、 f ^ 0.8371 なので、同じ下肢長/大腿骨比の場合、大きくなるほど、CLPスコアは大きくなります。
 
 具体的に、下の表に示すように、同じプロポーションの小型種と大型種で、走行性をシミュレーションしてみました。

 小型種、大型種で、プロポーション(大腿骨長/下肢長(実際)の比率)は同じですが、走行性は大型種が高くなります。



 
 
小型種
大型種
大腿骨長
20.0
100.0
下肢長(実際)
50.0
250.0
下肢長(計算)
51.3
197.3
走行性
-2.5
26.7
 

 
 また、以下に論文で計算されたCLPスコアの一部を示します。T.rex の場合、その体重より予測された下肢長より実際は 11.5%長く、スコアが高いほど、速く走ることに適応していたというのです。

 


  1. CLP スコア:
  2.  
  3. Sinornithoides youngi:40.6 
  4. Nanotyrannus:35.8,32.7(2つの標本から) 
  5. Sinosauropteryx prima:17.8 
  6. Tarbosaurus baatar:14.2 
  7. T.rex:11.5 
  8. Troodon formosus:7.6 
  9. Deinonychus antirrhopus:-2.2 
  10. Allosaurus fragilis:-7.9 
  11. Velociraptor mongoliensis:-13.2 
  12. Sinornithosaurus millenii:-20.4
 


 同じ獣脚類種の中では、複数の標本や成長段階によらず、CLPスコアは一貫性のあるものとされています。 

  初期の獣脚類のCLPスコアは低く、コエルロサウリアであるティラノサウロイデアやコンプソグナシダエ(科)になると、高いとされています。    

 デイノニコサウリアの系統では、トロオドンチダエは比較的高く、ヴェロキラプトルやデイノニクスを含む多くのドロマエオサウリアのスコアは低いとされています。  

 これは、全てのドロマエオサウリアが、特に走行性に適していたわけではないとされています。  

 興味深いのは、成長に伴うCLPスコアの変化です。ティラノサウロイデアの中でも、アルバートサウルスやゴルゴサウルスでは、幼体のCLPスコアは成体のスコアの範囲内とされています。  

 一方、ナノティラヌスのスコアは、T.rexの範囲外です。よって、ナノティラヌスの長く伸びた足は、T.rex の幼体というわけではなく、両種は形態的に異なるとされています。


 


  1. References:
  2.  
  3. W. Scott Persons IV & Philip J. Currie (2016) 
  4. An approach to scoring cursorial limb proportions in carnivorous dinosaurs and an attempt to account for allometry. 
  5. Scientific Reports 6, Article number: 19828 (2016) 
  6. doi:10.1038/srep19828
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