恐竜の系統の最近のトピックス

鳥類とは?/鳥類の定義

 鳥類とは、「始祖鳥と現生鳥類の最も新しい共通の祖先から派生する全ての子孫 」と定義されています。

  これは、分岐学的手法によるによる鳥類(Aves)という分類群の定義です。Aves(鳥類)はリンネが1758年に名付けた分類名ですが、分岐学で再定義されています。


■鳥類の特徴
 Aves (鳥類)の外群に Avialae(アヴィアラエ)というクレードが提案されています。ゴーティ エ(Gauthier)が1986年に定義したクレードです。

 
 Aviale と Aves を特徴付ける派生形質(より進化した特徴)の一部を 示すと、次のようになります。 羽毛や叉骨はこれらの特徴に含まれていません。


 Avialae

  1. 尾椎の孔と上部関節面の縦の直径比が0.4以上       
  2. 尾椎の数が25より少ない
  3. 肩甲骨の関節窩が後方を向いている 第4指の長さは、第2指の長さにほぼ等しい
  4. 第1指は完全に後ろ向き  

 

 Aves

  1. 背柱は、大たい骨の長さにほぼ等しい
  2. 近位の尾椎関節突起は短い
  3. 坐骨にある閉鎖孔突起が欠如
  4. 恥骨の閉鎖孔切痕から先端までの縁が滑らか
  5. 後足第2指の爪が、他の指の爪の形状と同じ

  また、分岐学における恐竜の定義では、鳥類は恐竜そのものです。 分岐学では厳密な単系統のみを扱い、従来の分類の考えのように、一部の分類群だけを恐竜というわけではありません。

 その意味で、鳥類が恐竜から進化したというのは厳密には誤りです。ヒトも哺乳類そのものであって、哺乳類から進化したとはいいませんね。一部の小型獣脚類から進化したというのが適切でしょう。

  なお、鳥類と区別するために、鳥類以外の獣脚類を、「非鳥類型獣脚類」として区別する場合があります。しかし、これは側系統であって、分岐学で定義されたクレードではありません。 

2011年 1月 16日(日)
階層名は使わない

 

  1. 階層には科学的な根拠がない
     鳥類が恐竜とすると、「昔習った爬虫綱とか鳥綱はどうなるの?」という声も聞きます。これらの伝統的な分類は、系統関係というよりも、多分に人為的な分類なのです。
     "綱"や"目"などのリンネ式の階層(rank)には、科学的な定義はありません。
     
  2. 階層名は用いてはいけない
     分岐学での系統解析では、分類群はお互いの相対的な位置関係を示しているだけで、順位(上下関係)はあり ません。 階層という考え自体が無く、用いてはいけないのです。つまり、分岐学では「恐竜上目」や「獣脚亜目」は誤りです。
     また、テタヌラ類(Tetanurae)のように分岐学でのみ定義された分類群に、 "テタヌロス下目"と階層名をつけてはいけません。
     
  3. 分類群名の日本語名
     階層名(英文)で日本語訳がない場合は、英語のアルファベット読みが普通です。テタヌラ類を"堅尾類"と訳している例もありますが、階層名は単なる記号なので、へたに日本語をあてはめると誤解を招く場合もあります。

 

 

 例:ティラノサウルスの場合  
 
  英 名     分岐学       リンネの階層名    
 --------------------------------------------------------------------
 Dinosauria    恐竜(類)       恐竜上目   
 Saurischia    竜盤類         竜盤目   
 Theropoda    獣脚類        獣脚亜目   
 Tetanurae    テタヌラ類        ?  (未定義)
 Coelurosauria  コエルロサウリア類  (コエルロサウルス下目
                             ただし、分岐学とは異なる分類群です)
 Tyrannosauroidea  ティラノサウロイデア  ティラノサウルス上科   
 Tyrannosauridae ティラノサウリダエ    ティラノサウルス科   
 Tyrannosaurinae ティラノサウリナエ   ティラノサウルス亜科  
 Tyrannosaurini  ティラノサウリニ      ティラノサウルス族
 Tyrannosaurus  ティラノサウルス属   ティラノサウルス属



 分岐学では T.rex は、「恐竜上目、竜盤目、獣脚亜目、テタヌロス下目、ティラノサウルス上科・・・」という順位のある階層分類に押し込められているのではありません。

 進化の系統上における「恐竜類、竜盤類、獣脚類、テタヌラ類、ティラノサウロイデア・・」という相対的な位置にいるのです。

2011年 1月 16日(日)
系統学と分類学の違い

 

  1. 分岐学は、分類学ではない。
     分岐学は、標本を既存の枠組みに当てはめる鑑定のような分類学ではありません。子孫と祖先の関係を解明し真実に近づいていこうとする系統学です。系統解析の結果が分類になっているのにすぎないのです。時には既存の分類群自体をぶち壊し再構築していくダイナミックな研究分野です。
  2. 分類学と系統学
     「生物系統学」の中で、三中信宏氏は 次のように説明しています。   
     
    分類学:生物の形質(特徴)を分析し、種を記載して、分類体系を構築
         していく学問。   
    系統学:生物の系統(生物の歴史)関係を調べ、系統発生を推定する学問。  

     両学問は、対象生物の形質(特徴)を分析すると言う点では同じですが、異なる目標を目指しているのです。
     分類学は、生物というものを、人が理解しやすいようにカテゴリー化し、説明する ことで、人は生物というものを認知(理解)できるのです。その意味で、分類学は、 「認知科学」です。
     一方の系統学は、系統を推定する、すなわちどのように進化したのか推定することで あって、「歴史科学」なのです。

 

 その結果にすぎない系統樹や分岐図を、「言葉のシステム」として翻訳した ものが、分類体系であるとしています。

 

■参考
  

  1. 生物系統学(東大出版会、1997)
2011年 1月 16日(日)
分類学とは

 分岐学は、生物の進化を分岐パターンから解析する系統学です。

 分岐学的手法による解析方法は他分野でも使われていますが、古生物学の場合、その系統の解析に用いられています。

 

■説明

  1. 従来の伝統的な分類学とは異なる点があり、注意が必要です。
  2. もちろん仮説であって常に検証・修正され続けています。
  3. 分岐学的な解析方法は、他の分野でも活用されています。
  4. 歴史
     1950年代に、昆虫学者のウィリ・ヘニッヒ(Willi Hennig)によって提案されました。
  5. 解析方法
     古生物学の場合、骨格に残る特徴(形質)を祖先形質(原始形質)と子孫形質(派生形質)にわけ、子孫形質のみを元にして系統を解析します。新しい形質は子孫に受け継がれる可能性が高いからです。
     形質を数字化したデータマトリックスを用い、最節約原理により最も形質の変化が少ない分岐図を選びます。
     例えば9つの形質で分岐図は100 万を超えるため、当然解析にはコンピュータが使用されます。
  6. 単系統のみ  
     厳密な単系統のみで、側系統(単系統から一部の系統を除いたもの)や多系統(いくつかの系統の寄せ集め)は認められません。従来の分類の考えのように、一部の分類群だけを恐竜というわけではありません。
  7. 分類群の定義
     分類群は、2つ以上の分類群の相互関係で定義されます。「・・・の特徴を持つものを恐竜という。」などとその特徴で定義するわけではありません。
  8. 表現図  
     分岐図です。単に分岐順序を示すだけです。用いられる形質のデータには、子孫?祖先情報や時間情報(どの時代の地層で発見されたかなど)は含まず、これらの概念はありません。
  9. 分類群名は単なる記号
     「竜脚類」や「鳥脚類」などの分類群の名称は単なる記号に過ぎず、分類群名がその分類群の特徴を示しているわけではありません。
  10. 階層名は用いてはいけない
     階層の概念はありません。よって、「獣脚亜目」などの階層名は用いてはいけません。
  11. メリット
     形質に重みづけはせず、個人差を生じにくく、客観的で再現性のある手法です。
  12. デメリット
     側系統群を認めず、類似の程度を考慮しないので体系が現実的でなくなるデメリッ トもあります。  また、1つの種が分岐せず、次々と形質を変化させて進化していく「向上進化」や網目状進化(種間で交雑がおこる2次的種分化)には対応できません。
■参考
  1. 恐竜大百科事典(朝倉書店、2001)
  2. 生物の種多様性(裳華房、1996)
  3. 生物系統学(東大出版会、1997)
2011年 1月 16日(日)
恐竜とは?/恐竜の定義

 恐竜とは、「トリケラトプスと現生鳥類の最も新しい共通の祖先から派生する全ての子孫」と定義されます。

 Dinosauria is all descendants of the most recent common ancestor of Triceratops and modern birds.

 

■説明

  1. これ以外に科学的な定義はありません。
  2. 恐竜を科学的に研究している古生物学(古脊椎動物学)での、恐竜(Dinosauria)というクレード(単系統のグループ)の、分岐学(cladistics)的手法による定義です。
  3. 分岐学では、上記のようにクレードの相互関係で定義します。"直立歩行する爬虫類"などは恐竜の一部の「説明」であって「定義」ではありません。なお、"直立歩行"は、恐竜の祖先にあたる動物群が既に獲得していました。
  4. また、"トリケラトプス"と"現生鳥類"という実際に観察可能な生物群で定義しています。
     "・・な爬虫類"と、言葉で定義すると、では、"爬虫類"とは何なのかと延々と続くことになります。"爬虫類"はヒトが考えた概念であって、実在しません。"中生代に栄えた"とか、ヒトを基準にした"大きい"という表現もあいまいです。
  5. 「Dinosauria」は1842年に、大英自然史博物館(当時)の初代館長だったリチャード・オーウェンが提唱しましたが、1993年に、Padian と Mayにより分岐学的に再定義されています。


 

cladgram_dino.jpg 図で示すと以下のような関係になります。
 分岐学による定義は、タクソンの集合包含関係(上)を示しています。 
 
 この関係を図で示すと、中央の分岐図(クラドグラム)になります。分岐図は、集合包含関係を示しているだけで、子孫?祖先関係や時間の概念はありません。
 
 なぜなら、解析に使用しているのは派生形質(進化した解剖学的特徴)だけであって、子孫?祖先関係や時間はデータに含まれていないのです。分岐図の線の長さや角度にも意味はありません。
 
 分岐図では、分岐点が恐竜というタクソンを表わします。

 1番下の子孫?祖先関係を示す系統図がわかりやすいですね。分岐図の情報に、子孫?祖先関係を加えたもので、線はその関係を表わしています。
 トリケラトプスと現生鳥類の「もっとも新しい共通の祖先」とは、分岐点に位置するという仮想の生物群になります。そのから派生する全ての子孫が恐竜ということになります。
 
 化石が見つかった年代を考慮し、時間の概念を加えた系統図もあります。線の下ほど古い時代というわけです。
 分岐図に、化石が発見された地層の年代など、別の情報を追加した系統図は、わかりやすいのですが、科学的裏づけが低下します。くれぐれも、分岐図と系統図を混同しないように注意してください。

 以上からもわかるように、鳥類は恐竜そのものです。



■参考

  1. The FORMAL Definition of Dinosauria/恐竜の公式な定義
    メリーランド大内のトーマス・ホルツ博士の講座テキストの一部です。
  2. What is a dinosaur?/恐竜とはなんだ?
    英国のMike Taylorさんによる "The Dinosaur FAQ"の一部です。

2011年 1月 16日(日)